満山紅柿
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 スクリーンには、農家の納屋の軒先にびっしりと吊された干し柿。やがて、枝先に『守り柿』と呼ばれる2〜3個の実を残した柿の木が、冬間近の蔵王山系の山々をバックに映っている。そしてオレ達の曲である『ガモス』が静かに流れる。小川伸介監督のナレーションが重なる。「日本国中のこういう『ムラ』が、自然に無くなってきてるんです。いや自然にと言うより、気がついたらいつのまにか片っ端から無くなっているのに気づかされるんです。」
 本編が終了し、スクリーンには十数年の歳月の中すでに他界された出演者達(小川監督も含む)の顔、そしてスタッフロール。その中には『音楽:縄文太鼓』とのクレジットがある。映画『満山紅柿』は曲の最後の大太鼓の音「ドーン」で終わった。少し間が空いて、それから会場いっぱいの拍手。まるでオレ達の演奏への拍手のように。なんか、て、照れるなぁ……。

 ここは『山形国際ドキュメンタリー映画祭』の開会式会場、山形市中央公民館大ホール。今日は、特別招待作品であるこの映画を見るためにメンバー六人でやってきた。『満山紅柿』は、小川監督が残した『牧野物語・紅柿編』として撮影された未公開フィルムを、以前から親交のあった中国の彭小蓮(ポン・シャオリェン)という女流監督が追加撮影し、まとめあげた作品である。小川監督率いる小川プロダクションは、ご存じのように十数年もの間上山の牧野地区に住み、『日本国古屋敷村』や『千年刻みの日時計・牧野物語』など、数多くのドキュメンタリーの名作を残した映画制作集団である。その小川プロとは『牧野物語』に出演した佐藤正四郎先生の紹介で、縄文太鼓が発足して間もない頃からの付き合いがあり、少なからずの影響を受けている。小川プロのスタッフが共同生活をしていた牧野の古い民家。オレ達はそこで、本来なら決して触れ合うことなど無いはずの、小川監督を始めとする様々な文化人や、多方面で活躍されている人々との数多い出会いの機会を持つ事ができた。小川監督自慢の手作りカリーも何回もご馳走になった。しかし、その小川監督は1992年に惜しくも他界され、小川プロも解散しあの思い出のいっぱい詰まった牧野の民家も、今は無い。
 そんな尊敬する小川監督の映画に、監督自身がインタビュアーとして出演しているシーンにオレ達の演奏がかぶっている、これはスゴイ光栄なことだし、なにか運命的なモノを感じてしまう。

 ところで、なんでそんな映画にお前達の音楽が使われたのかって?うん、とってもいい質問。制作に携わった小川監督の奥さんの話しによると、音楽を決めるために彭監督に沢山の候補作品を聴いて貰ったんだって。ほんで、そん中にたまたまオレ達のCD『ドンコ』も紛れ込んでたらしくって、どういうワケだか一発で気に入られちゃったってことなんだよね。予備知識も全く無しに。で、アルバムの全10曲中ナント8曲もそこら中のシーンに、いいのかなって位使われてて、オレ達にとってみればまるで縄文太鼓の映画のように思えてしまう、ということなんです。まさに運命的なんだよね。えっ?言い過ぎだろって?まぁそうかもしれないけど、いっぺん観てごらんなさいよ、ホントにそんな気がしてくるから。縄文太鼓の曲のそれぞれが、すべてこの映画のために作られたみたいに、ナントも不思議なくらいマッチしてるんだもの。いや、マジで。

 え〜、朗報をもいっこ。オレ達のCDも発売から早三年。お陰様で制作費の借金も全額返済できたし、多方面からお褒めの言葉を頂いたりして感激してるところなんだけど、そのCD『ドンコ』が、スリーディーシステムのTKセッションというレーベルから全国発売されることになったんです。そう、“めぢゃあでびゅう”っちゅうの? 発売日はこの10月24日。まかり間違って大泉さんの『孫』のように大ブレイクしたら、どうしよう? え?ドンコ御殿?チョー豪華な竪穴式住居? い、要らんわいそんなモン! でも、もしお金がいっぱい入ったらビデオを作りたいな。縄文太鼓の音楽をバックに西根の良いところを紹介するような……。勿論、プロの映像作家に頼んで空撮なんかも駆使して……。あはっ、夢ゆめ!

 『満山紅柿』、たぶん近い将来長井でも上映の機会があるはず。その時は観てくださいね必ず。きっとだよ。


2001.OCT 縄文太鼓 金子俊郎

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