子ウサギたち


 ねぇねぇ、見た見た? キューちゃん、カッコよかったよねぇ〜! ヤワラちゃんの笑顔もサイコーだったし。
 そうそう、あたしは「めっちゃくやしいですゥ」っていうのがとっても印象に残ったわ。今までの日本選手にはいなかったもの、あんなに明るい人。
 ボクはサッカーくやしかったな、ナカタさんかわいそうだった。
 それからそれから…。

 ここはハチローさん宅のウサギ小屋。ペチャクチャうるさいのは、白と黒と茶色の子ウサギたち。話題の中心は、先日閉幕したシドニーオリンピックでの日本選手の活躍のことらしい。え?ウサギはしゃべらないだろう、って? いえいえ、そんなことはないんです。あの大きな耳はダテに付いてるワケではなくて、人間には聞こえない周波数の声を聞くためのものなんです。で、なんでその声があなたには聞こえるのかって? なに、いちいちそんな細かいことを、あーた…。
 そんなワケで、今日は子ウサギたちのおしゃべりに、ちょっと耳を傾けてみましょうか。

 オリンピックも終わっちゃったし、いよいよあと数ヶ月で21世紀ね。
 そうね、いったいどんな世の中になるのかしら?
 ボクはとりあえず、明日もおいしいモンおなかいっぱい食べられればいい!
 バカね、だからあなたは子供なのよ。おじいちゃんから聞いたでしょ、人間たちの歴史を。ずっと昔は人間たちも自然とともに仲良く暮らしてたンだって。でも今では、なんでも自分たちの都合のいいように勝手に生きてるでしょ、だから色んな問題が起こってるンだって。
 へぇーそうなの…。でもボクたちのご主人さまは違うよ。
 そうよ、だからあたしたち安心して暮らしていけるンじゃない。
 ボク思うンだけどサ、ここの古代の丘に来る人たちってみんなやさしいような気がするよ?
 そうね、色んな人たちがそんな願いを込めながらここを整備してくれてるから、その心がみんなに伝わっていくのカモね。

 あ、そう言えばあたし、いい話を聞いたわ。
 え?なになに?
 あそこの星の広場の下にススキだらけの丘があるでしょ。あそこって街の方からもよく見える場所なんだって。
 ウン、ボクも知ってる。で?
 あの丘一面にね、コスモスをいっぱい植えたらキレイだろうな、って。
 あっ、それいい!
 でしょ?毎年ちょうど今頃の季節、色とりどりのコスモスが一面に咲いてて秋風に揺れてる、なんて、考えただけでもワクワクしてきちゃう。
 春は菜の花、夏にはヒマワリを咲かせる、なんてこともできたらいいよね。
 スゴイスゴイ、それが遠いところからも見えたら、みんな見に来るわ、きっと!
 そうすると、やさしい人たちがいっぱい増えるのかなぁ…。
 ウンウン、そうなるといいわよねぇ。

 ところでサ、今日は縄文まつりの日じゃなかったっけ?
 あ、そうだ! 去年はたくさんの子供たちと遊んだのよね。楽しかったぁ〜。
 でもサァ、なかには耳引っ張ったり尻尾つかんだり、手荒い子供もいてサァ、ボク、しばらく痛くって痛くって…。
 キャハハ、しょうがないわねあたしたちが可愛すぎるンだから。さーて、今年はいったいどんな子供たちが遊びに来るのかしらね。
 ホラホラ、ウワサしてたらさっそくご主人さまが連れ出しに来たわよ。

 ハチローさんは、やさしい笑顔をたたえながら子ウサギたちを一羽ずつ丁寧に箱に移した。そしてそれを軽トラックに乗せ、子供たちの待つまつりの会場となる土偶広場へと運んでいった。


2000.OCT 縄文太鼓 金子俊郎

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