長井古種は、古来の花菖蒲とは異なる品種で、江戸系の古種よりもさらに原種に近いと言われています。花の形は、「ハナアヤメ」に極めて近く、三枚の花弁からなるものが主となっています。花弁が重なり合わず、ほぼ水平の状態に開く「乎咲き」と、やや垂れ気味に咲くものが大半です。花の色は、主に白と赤紫ですが、園芸種にみられるものは、ほとんど揃っています。
また、丈は花茎、せ早丈ともに長く、菓は剣状で緑濃く、路地植えに適しています。花茎の分岐点は2.3段、花数は9.10輪を数え、花の咲く時期の長いことも特徴のひとつです。長井古種は、江戸系、肥後系、松阪系などに比べるとやや小ぶりですが、可憐な野の花の姿をとどめ、清楚で品のよい魅力があります。
長井小町
なかでも「長井小町」は、長井古種の代表的な特徴を備えた花で、花弁はぬめ地のようにつややかで、やわらかな風合いをもつています。花色は、白地に柵い藍色の脱が細かく餅のようにあらわれ、内花弁は耳形に立ちあがり、濃い藍色に細いふちどりが目立ちます。花柱には、白に赤みのある藍色が淡く入ります。
その嫡扶花が、「日月」。この花の花弁は、大きな扇型で柔らかな手触り。先は内巻きです。花色は、白地に薄い赤藤色のはけめ模様が裏まで通っています。内花弁は、赤藤色の鉾型で、立ちあがっています。
珍花と呼ばれているのは、「竜のひげ」です。雨樋のょうなX字形にくぼんだ花弁と、その逆に盛りあがった花弁が、ひとつの花に同時にあらわれる、珍しい花です。花色は紫の単色ですが、陽があたると赤みが強く見え、咲き始めから終わりまで、色が変わりません。
子桜姫
その名も愛らしい「小桜姫」は、白地に赤みがかった紫色のぼかしで、同じ白のムちどりが太く入ります。つぼみは濃い紫色で、咲き始めると赤く変化するのが特徴です。群生して咲く姿はとても見事で、生け花にも適しています。
出羽娘
紅花染めの桃色に近い、朱華色も鮮やかな「出羽娘」の花弁は、しゆす織りのぬめ地のょうに柔らかで、光沢があります。花弁の付け根近くは、淡い黄色に白い筋がかすり状に少し入ります。花柱は太く、その先端には花弁ょりもやや薄い色のふちどりができます。
七 夕
「七夕」は、名前の通り、幻想的な色合いをたたえています。丸みを帯びた花弁に、白地に紫の線が綾目に入り、葉はあくまで剣型をしています。
長井古種のなかでは、珍しく江戸系に近いのが「郭公烏」です。三枚の花弁は浅く重なりあい、肉厚の大きな円形で、濃い筋があらわれます。花色は赤みのある紫紺色で、白く細いムちどりがあります。内花弁は卵型で大きく、赤みが強いのが特徽です。あやめの季節に鳴く郭公鳥から、この名がつけられました。
長井・古種を代表する銘花が、「野川の鷺」。三枚の花弁が重なり合わない「空き花」です。花弁は柔らかく光沢のある、ぬめ地のような風合い。色は白地にわずかに淡く藍をムりかけ、ぼかしたようで、花弁の先に藍色のふちどりができます。この花は、野川のほとりに遊ぶ白鷺の姿から名づけられたもので、以前より多くの愛好家たちに珍重されてきました。
これら長井・古種をはじめとする、色とりどりのあやめが咲き誇る園内には、シーズンになるとたくさんの人々が訪れ、その美しい姿を堪能してゆきます。