ネタ切れするまで続く
木曜日は木の話
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2007年3月


その181  木の家          3月29日
 
最近建つ住宅の多くは、ほとんど真壁の部屋がありません。タタミを敷いて和室にしても、壁は大壁にして柱を表面に出さない場合が多くあります。
その理由としては、真壁にすると無節の柱や造作材を使うので木材費が上がる事があるでしょう。そして、その加工もあるので工賃も上がるという事もあるでしょう。
いつも参加している林業実習の講師であるKさんも若い頃から枝打作業をして、いわゆる無節の材料を取れる杉の木に育つように手入れをしてきたと言っています。そのほうが木を伐って売るときも、当然高く売れます。
ところが最近、今までのように仕上の表面に出てくる木材を無節にこだわらないというパターンが出てきています。2月の末の林業実習の時に見学した家もそうでした。
それはKさんの山の木を使って去年建てた家で、静かな住宅地にありました。床板のサワラの木はもちろんですが、柱や現しの梁にも普通に節がありました。それまでは造作材は無節と言うKさんの考え方が、少し変わってきているようでした。
これまたいつも行っている大工塾を開いているTさんの場合は、ずっと以前からそうです。Tさんが設計する家は、基本的に杉の並材を使って真壁で作っています。材料の選定や使い方も、節の有る無しに基準を置いていません。その材料のくせや強度をみて使い方を決めています。
節がある材料を使ってどんな影響があるかというと、抜けるような節の場合は多少強度に影響する場合があります。また、乾燥収縮の際に節の部分が均一に収縮しないで、変形する場合もあります。と言うことは、使う際にそのことに気をつけていれば問題ないという事です。
今庄内の山にある木の多くは、Kさんの山の木のようにきれいに手入れされているわけではなく、伐り出して製品になったとしても節のある材料が多いはずです。それを使うひとつの手段として、大壁にして表面に出さないという形があります。でも、前述のように節があることを気にしないで使うという事も選択肢の一つです。
どれが良いかという話ではなく、今あるものをどうしたら有効に使うことができるか、それを考えて行くことが人にも環境にもやさしい家づくりにつながるような気がしています。
 


その180  旬U          3月22日
 
1月・2月はほとんど雪が降らないという暖冬で、今年の春はどんなにか早くやってくるのかと思っていたら、3月になってこの雪で春も後戻りと言った感じでしょうか。その春が後戻りする前の3月初めの日曜日に、去年きのこ採りに連れて行ってもらった大工のNさんと山に行ってきました。
今回はワサビ採りです。売っている葉ワサビは買って食べたことがありますが、自分で採りに行くのはもちろん初めてでした。でも、きのこ採りのように深い山に入るのではないという事で、朝もゆっくり支度ものんびりでした。
国道からそれて山に向って、間もなく林道に入っていきます。が、林道の両脇の木や枯れ草が邪魔で車が前に進めません。それほど遠くはないという事で、車を降りてあるき始めました。と、今度は道の真ん中に杉のきがポコポコ生えています。Nさんが前に来たときはもっと小さかったと言っていましたから、きっと実生から大きくなってものなのだと思います。それにしても、道の真ん中に木が生えるほど誰も山に行かなくなったと言うことは、それほど山の荒廃が重症だと言うことです。
10分ほど歩くとどうやらワサビがある場所に付いたようで、Nさんがワサビを採るらしき素振りをはじめています。が、春まだ早くて雑草もそう多く生えていないのに、私にはどれがワサビなのかさっぱりわかりません。
「それ、そごの丸こい葉っぱ」と指差す先を見てみると、道端にいっぱい生えています。採るのもいたって簡単、すぐに袋にいっぱいになります。そして、脇を流れる沢で根っこの土を洗って終了、全工程1時間ほどでしょうか。沢の水は思ったより冷たくありませんでした。きっと雪解け水だけでなく湧き水も多く流れているのでしょう。
ワサビは家に帰ってからもう一度洗ってから細かく刻んで、酒粕と砂糖と塩でワサビ漬けにしました。根っこの大きなものが少しあったので、刺身を買ってきて本格おろしワサビもいただきました。
旬のものをその時期にいただく、それも自分で採ることができるなんてずいぶん贅沢な事ができるような気がします。でも、本当はそれがあたり前になれば、山がもっと健全な状態になってくるんだろうと思った一日でした。 



その179  旬            3月15日
 
暖冬・暖冬と高をくくっていたら、今頃になって雪です。3月も半ばになってからようやく根雪かッ!と突っ込みを入れたくなりますね。
昨日の夜は所属する某会の総会がありました。総会と言っても会計報告程度で、そのあとは懇親会でした。今の時期に出てくる料理は定番の揚げ物・焼き物などの他に、アサツキの酢味噌和え、ウルイのおひたし、菜の花など等。旬のものが小鉢に並んでいました。
旬といえば木にも旬があります。木を伐採するのにいい時期を“伐り旬”といいます。木は春から夏にかけて水分を吸い上げ養分を作ります。そして秋に養分を使って成長して冬はあまり活動しません。
伐り旬の目安のひとつは、水分(含水率)です。たとえば比重が低い杉は水分をいっぱい含んだ春から夏にかけて伐採すると、含水率が200%ほどあります。それを乾燥させるには時間と手間がかかるわけで、できるだけ含水率が低い冬の時期に伐採したほうがいいという訳です。
木は表皮に近い部分(形成層のあたり)で多く水分を吸い上げています。春に杉を伐って皮をむくと、ビショビショに濡れていると言っていいぐらいに水分を含んでいます。
もうひとつの目安は、木材に含むでんぷん量です。これもやはり春から夏にかけて量が多くて、冬の時期は少なくなります。やはり冬が伐り旬というわけです。
でんぷん量が多いとなぜよくないのでしょうか。それは虫が好んで入るからです。天然乾燥の場合は特に、乾燥している間に虫が入るという事があったり、湿気と重なると腐りやすかったりするわけです。
去年の春に家の山で伐った木の中で、大きいものの内の何本かを皮をむいた状態で地面から少し浮かせてとっておいたのがあります。皮をむかないとすぐに虫が入るし、夏が過ぎると皮がむきにくいので春に伐ったものです。
一冬過ぎてどうなっているか?でんぷん量までは計れないのですが、虫が入らなくて腐っていなければまた今年もやってみようと思っています。ログハウスとまではいかなくても、掘立小屋ぐらいのツリーハウスは出来るかなぁと、楽しみにしています。



その178  耐力壁          3月8日
 
耐力壁が構造的に外力に耐える場合の性格として、大雑把に分けて2つあります。
 
 @ 硬くて頑丈で変形しないで耐える形で、限界が来るとガクッと崩れる
 A ある程度変形しながら耐えて、最終的に限界が来ても崩れないで変形し続ける
 
鉄筋コンクリート造は@という事ができます。木造の耐力壁でも筋違はこちらに近い状態です。木造の構造用合板や貫工法や土塗り壁はAに近い形です。
どちらも計算で基準を満たしているから安全なわけですが、その結果には大きな違いがあります。壁の場合は先週もお話した層間変形角が1/120以下と言う基準があるわけですが、たとえばギリギリの経済設計をしたとします。超特大の大地震が来たとして、@の場合はてその基準を超える力がかかったとしたらその後すぐに建物が崩れてしまいます。Aの場合は基準を超えた後も粘りながら変形して建物を支え続けるので、すぐに崩壊はしません。
木造の場合は耐力壁の種類だけでなく、施工の方法や柱と横架材の仕口によっても違ってくるので一概には言えませんが、変形が大きくなったとしても粘って崩壊しなければ命だけは助かる可能性が高いともいえます。
層間変形角1/120がどういう常態かというと、たとえば一般的な高さが3メートルの柱の場合、3000/120で25ミリ横に変形するという事です。木造の性格からするとこのぐらいの変形は結構簡単に起きそうなもので、施工がきちんとしていれば、外力(地震や風)がおさまればまた元に戻ります。
先週お話した実験住宅の実験では1/60の変形まで力を加えたわけですが、その力を解いた直後には1/600程度まで変形が戻っていました。3メートル高の柱で5ミリ程度の傾きになるわけですが、被災後に当面住むのに問題があるほど大きな変形ではないと言えます。
木造の場合は耐力壁の種類・強度・配置や仕口との関係など、選択肢が色々あります。住む人が何を望んでいるか、建物の形状や経済性、それにあわせて使う材料や工法を考えていくことが必要です。



その177  構造実験          3月1日
 
先週の土・日は、いつも行っている大工塾でした。1月から3月までは構造実験で、今回は耐力壁の実験でした。それといっしょに土曜日には、一昨々年に建てた実験住宅に実際に荷重をかけて耐震性能を検証するという、ちょっと大掛かりな実験もしました。
住宅の外部8箇所にワイヤーをかけて、層間変形角(高さに対して横に傾く割合)1/60まで徐々に引っ張っていきます。途中で何回か止めて、その段階で外壁(下見板)や内壁(土塗り壁漆喰仕上)にどんな影響(ヒビなど)が出るか、建具はどの程度開け閉め・施錠できるか等を見ていきます。
この実験で一番に思ったことは、耐力壁(この場合は土塗り壁漆喰仕上)のヒビの入り方が、そこそこの場所でばらつきがあるという事です。これは何を意味しているのでしょうか。
たとえば地震が起きて、横揺れの力が建物にかかったとします。そうすると、耐力壁(筋違・合板・土塗り壁など)でその横揺れに対抗して、建物が変形しないように抵抗します。その時に建物の各部に均等に力がかかっていれば、耐力壁の変形(この実験の場合土塗り壁のヒビ)はどこも同じになるはずです。
この実験住宅では、一部2階建てになっています。その下屋部分の壁よりも、2階が載っている部分の壁のヒビの入り方が大きかったのです。2階が載っているからあたり前か、では済まされないものがそこにはあります。
木造の壁量計算では、平面全体の耐力壁の合計で足りるか足りないかの計算をします。耐力壁の配置のバランスもチェックします。通常の規定はここまでで、その耐力壁がどういう抵抗の仕方をするかまでは測りきれません。
どういうことかというと、大きなヒビが入った壁はヒビが小さかった壁が充分横揺れに抵抗する前により大きな力がかかってしまい、その結果そこに力が集中して耐力壁が破壊されてしまう事が考えられます。そのあとに残った壁が抵抗しても、建物全体を支えきれないかもしれません。
これを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。ひとつは水平面(床面・屋根面)の剛性を高めて建物にかかっている荷重や水平力を、確実に耐力壁に伝えるという事です。もうひとつは、横架材の一体化で横揺れの際に建物が一体で動くようにすることです。このことは耐力壁の計算のように数式や表でチェックされているものではないので、それを設計の段階や現場でどう対応していくか、そこが重要なポイントになります。不整形の形をした建物や梁スパンが大きい場合は、特に注意が必要でしょう。
ちょっと難しい話になって文字だけでは表しにくい部分も多いのですが、「基準法にのっとってやっていれば安全」とは言い切れない事だけは確かなようです。