ネタ切れするまで続く
木曜日は木の話
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2004年7月


その53  五重塔U          7月29日
 
五重塔は真上から見ると正方形です。正方形には中心があります。その中心を通って切れば、縦・横・斜め、どう切っても左右同じ形になりますよね。ホントの中心です。
五重塔にはその中心に、心柱(しんばしら)と言う柱があります。
「五重塔には中心に心柱があって、その心柱が大黒柱のように五重塔全体を支えているんだなぁ、・・・すごい」、とむかしの私は思っていました。
ところがこの心柱は建物の荷重を支える、いわゆる“大黒柱”ではないのです。
心柱は、1階部分の梁の上に立っていたり、あるいは上から吊下げられていて宙ぶらりんになっていたりします。中には地面についている物もありますが、建物が乾燥によって縮んだり全体が重みで下がったりするとつっかえてしまうので、下のほうを切られてしまったりします。
なんじゃそりゃ、って感じですよね。
しかも五重塔には、通し柱がありません。そんな五重塔が今まで倒れなかったのはなぜでしょうか。
一つは、心柱が振り子になって地震のエネルギーを吸収しているという説、もう一つはそれぞれの階がヤジロベエのようにバランスをとって、交互に傾くようになっているからゆれが大きくならないので倒れないという説。
調べてみるとおもしろいのですが、力学的に解析したデータはまだ見たことがありません。
 
余談
羽黒の五重塔が建てられたのは1377年、現存する五重塔の中で6番目に古い物です。これはやっぱりすごいですよね。
むかしは中に自由に出入りできたそうです。そんな話をしているとある人が「んだんだ、おれのサインもまだのごったがもやぁ」なんて言ってました。
そんなことするから中に入れなくなるんだよッ、・・・ってことですよね。



その52  五重塔          7月22日

同業の建築士の先輩(鶴岡)で、五重塔に詳しいT・Sさんという方がいます。その方は善宝寺の五重塔を題材にした小説もかいています。私とは違って、文学的な建築士です。
昨日、そのT・Sさんの話を伺う機会があって、話題はまさに五重塔でした。
以前この木の話の中で、木造で10階程度の建物は建築可能だと言う話をしたときに、羽黒の五重塔を引き合いに出しました。が、恥ずかしいことに浅学な私は、その高ささえ頭に入っていませんでした。
たまたまT・Sさんの近くに座った私は、これはいい機会だと思って五重塔の大きさについて色々聞いてみました。
羽黒山の五重塔は、高さが33メートル程度だそうです。全国的に五重塔の高さは、30〜35メートルのものが多く、ちなみに、善宝寺の五重塔は35メートルだそうです。
ちょうど10階程度の高さになりますよね。
では、一番高いものはというと、京都の東寺の五重塔で、なんと54.8メートルもあるんだそうです。一昨年京都に行った時、知っていれば見てきたのに、とか思ってしまいました。
そして、一番低いのはと言うと、奈良の室生寺の五重塔で16メートルほど、それでも5階程度の高さはありますね。
この五重塔、今ででこそコンピューターで構造を解析したり、実験したりで設計できるでしょけど、現存する最古の法隆寺五重塔は1300年以上も前に建てられたものです。当時の建築技術の高さには、ただただ驚くばかりです。
それと、五重塔の数は全国でも60程度だそうです。その中の2つがあるこの庄内の地は、珍しいと言うか恵まれていると言うか、地元にいては気付きませんが、大変なことのようですね。
もう一つ、羽黒山の五重塔は典型的な和様で、とても美しい形をしているとおっしゃっていました。今度見るときは、ちょっと気をつけてみて見ましょう。
 


その51  森の話V          7月15日
 
森林浴という言葉があります。
日光浴は太陽の光を浴びる、海水浴は海に入る。では、森林浴は森に入る、・・・と何かいいことがあるのでしょうか。
森に入って深呼吸すると、なんだか清々しい気分になりますよね。実は森には香りがあるようです。その香りの正体は、植物(樹木)が出す『フィトンチッド』という揮発性の物質です。
このフィトンチッドは、抗菌・防虫、その他いろんなの効果があるようです。
森は落ち葉が腐ったり、虫や動物の死骸が腐ったり、考えてみると生ゴミ置場のようですよね。それなのに清々しい気持ちになれる、不思議な空間です。それは、このフィトンチッドの仕業のようです。
ヒノキ材の防腐防虫効果も、この中の一つなんでしょう。
ということは、このフィトンチッド、廻りを清々しくするために出しているのではなく、自分の身を虫や腐朽菌から護る、つまり攻撃材料だといえます。
ということは、人間にとっても有益な物とばかりは言えない、かも知れない、ですよね。たとえば毒キノコ、これもその一つの例のようです。また、ジャガイモの芽を取り除いて食べるのも、そこに害になる成分が含まれている、要するに食べられたくないというジャガイモの意思表示なわけです。
ですから、自然素材といっても必ずしも体によい、害のないものというわけではありません。これも適材適所、使い方次第と言えるようです。
調べてみるともっと色々あるようですが、森の効能、私たちにとっては数字やデータよりも、そこに行って感じる感覚のほうが大事なようですね
 


その50  森の話U          7月8日

先週森の話をしました。森の果たす役割には色々あります。
日本で森といえば、ほとんどが山です。山にふった雨は、川になって流れることはもちろんですが、地下に浸透して地下水となって里の生活に役立ちます。つい最近までは、鶴岡の水道水は地下水でした。
雨が降った時に山の状態が健全でないと、土砂が流れ出してがけ崩れになったりします。でも、山が適度に手入れされて地表面の植生が健全であれば、大丈夫です。
がけ崩れとまでいかなくても、今ダムに堆積する土砂が問題になっています。せっかく作ったダムが山から流れ出した土砂で埋まって、貯水量が減少してきていると聞きます。予想をはるかに越えるスピードだそうです。それも土砂を抑える山の働きが弱っている証拠でしょう。
杉や桧などの根は比較的浅いので、土砂の崩壊を抑える働きは広葉樹が混ざった混交林のほうが高いと言われています。また、広葉樹は切り株から芽が出てきて次の木が育っていくので、自然に再生する能力も高いようです。
家の山でも、去年ナラ枯れの被害が出て多くのナラの木が枯れました。全滅かと思いましたが、防除の効果があったのかわずかに残った物がありました。今年行って見てみると、確かに根っこのあたりから芽が出てきている物もあったし、どんぐりから自然に発芽した実生もあちこちに見えました。
これらの新しい芽は、藪の中では光があたらず育ちません。やはりある程度大きくなるまでは手をかけてやらないと、健全な森にはなってくれないようです。
この芽が大きくなって、どんぐりをつけるまで頑張ります。



その49  森の話          7月1日

庄内は周りを見回せば、どこでも田園風景が広がっています。
そして、その向こうには出羽三山・鳥海山・金峰山・etc
豊かな自然が広がっています。・・・と、わたしは思っていました。
あなたは山に行ったことがあるでしょうか。登山道ではなく森林そのもの、杉やナラ・カエデ等がはえている道からはずれた山です。
遠くから見ると緑豊に見える山も、どうも自然のままが良いとばかりもいえないようで、人間が手をかけずにほうっておいた山は、中に入るとけっこう荒れているのです。
この辺に一番多い木は、植林された関係もあり、やはり杉です。尾根沿いには、乾燥や寒さに強いナラ等があったりします。杉は風や乾燥を嫌い、湿潤を好みます。シダ類などの下草が生えたりしていると良いようです。
これがほうって置かれると、低木の常緑広葉樹(サカキやヤブツバキなど)がはびこり、下草が生えてくる余裕がありません。
山なのに山菜も取れない、という訳です。
最近は環境問題を語ると、何故かナラやブナなどの広葉樹がもてはやされる傾向にあるようですが、杉の人工林の働きは、決してあなどれません。
二酸化炭素の保有量は多いし、成長も早いので再生しやすい性質があります。また、寿命は長いし、軟らかく加工しやすいので、伐採した後の用途も様々です。
月山や鳥海山の登山ルートを登るのもいいですが、山の中に入るとこれはまた全然違います。言葉ではなく感覚だと思います。
あなたもいかがですか。朝モヤの残る山に入ると、心も体もリフレッシュです。